医療現場で起こっていること

ヒューモニー特別連載

第60回 第5波~若い皆さんに伝えたいこと

2021年07月26日 掲載

スピーカー 讃井將満(さぬい・まさみつ)教授  

新型コロナウイルス感染症第5波の感染拡大が止まらない。医療現場が直面しているその特徴と怖さとは? 「やはりコロナにはかからないで」――讃井教授が20代から50代の現役世代に送るメッセージ。

 東京都・沖縄県には緊急事態宣言、大阪府・埼玉県・千葉県・神奈川県にはまん延防止等重点措置が発出されていますが、その効果も薄く、新型コロナウイルス感染症の第5波が急速に拡大しています。この第5波には、いくつかの特徴があります。

①感染拡大のスピードが速い

 私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターがある埼玉県では、新規感染者数の前週比が1.50倍、実効再生産数(1人の感染者が感染させる人数の平均値。1以上になると感染は拡大する)は1.332(いずれも724日時点)とかなり高い数字になっていて、拡大スピードが速いことを示しています。それにともなって確保病床の使用率も急激に高まり、7月上旬には20%以下で余裕がある状態だったのが、現在はステージの指標となる50%に迫っています(724日時点で46.5%)。

埼玉県ホームページより

 その一因として、感染力が高いとされる変異株の影響があげられます。すでに従来株からイギリスで確認されたアルファ株にほぼ置き換わっていましたが、さらにインドで確認されたデルタ株が増加しており、全体の約30%を占めると推定されています。デルタ株はアルファ株より感染力が強いというデータがありますので、今後デルタ株への置き換わりが進むと、感染拡大がより深刻になる可能性があります。

②高齢者の感染が少ない

 高齢者の感染が驚くほど減っています。これは、高齢者のワクチン接種が順調に進んだ結果だと考えていいでしょう。また、現場の方達の地道な感染予防の努力や医療従事者のワクチン接種がほぼ完了したこともあり、病院や高齢者介護施設で施設内クラスターが件数、1件あたりの感染者数ともに激減していることが大きな要因になっていると考えられます。

③20代、30代の感染者が圧倒的に多い

 高齢者の感染が減る一方で、20代・30代を中心にその前後の世代(いわゆる現役世代)の感染者が実数・割合ともに非常に多くなっています。入院患者についても若年化の傾向は顕著で、県内の入院患者の年齢的な中央値は40代前半となっています。

埼玉県ホームページより

④中等症患者が多い

 感染者数は急増していますが、幸いなことに重症患者数が少なく、埼玉県の場合、重症者用病床使用率は20.0%です(724日時点)。これは、重症化しやすい高齢者の感染が抑えられているからだと考えられます。とはいえ、重症患者数の増加は感染者数の増加から遅れてやってきます。感染者が若年化したといっても、絶対数が増えれば重症患者数は増えていくでしょう。実際、ずっと20人台で推移してきた埼玉県の重症患者数が、ここへきて増加を始め、24日には33人となりました。とくに40代・50代の肥満体型の方の重症化が目立っていますが、中には人工呼吸器を挿管している20代の患者もいます。今後は重症患者数の増加に警戒しなければならないでしょう。このように重症患者数は少ない現状ですが、それに比べて中等症患者数が非常に多いことが第5波の特徴となっています。中等症用のベッドがすでに埋まってしまった病院もあるようです。

埼玉県ホームページより

 以上のような特徴から、第5波について、「感染者数の増加だけを見ても意味がない。重症患者が少ないのだからたいしたことはない」、「若い人がどれだけ感染しても深刻なことにはならない」といった見方があります。しかし、医療現場で実際に患者を診察しているわれわれ医療従事者の恐怖は減っていません。むしろいやらしさが増したような印象さえ持っています。

 第一に、中等症の怖さです。

 中等症といってもみなさんが思っているよりはるかに苦しい症状なのです。新型コロナ感染症では、肺炎の所見があった場合に中等症と診断されます。肺の状態が悪い場合は、酸素の投与も必要になります(中等症)。それ以上悪化して人工呼吸器が必要になった場合などが重症ですが、それは命の危険がある状態です。一般の方は、おそらく体感的には、中等症の苦しさを重症と感じるのではないかと思います。

 さらに中等症になると、入院期間は平均2週間にもおよびますし、たとえ治っても肺に後遺症が残る可能性がかなりあります。実際、第1波で中等症になった30代の患者(9参照)は、1年近く胸の痛みや息切れが続き、完全に社会復帰するまでおよそ1年かかりました。

さいたま市ホームページより

 ちなみに、大分県の調査では、第3波とアルファ株が拡がり始めた第4波を比べると、40代では5倍以上が中等症以上に悪化したとのこと。30代は感染者の25人に1人、40代と50代は10人に1人が中等症以上にまで悪化したと報告されています。

 第二に、後遺症の怖さです。

 新型コロナ感染症では、前述のような肺の慢性的障害だけでなく、ウイルス後疲労症候群などさまざまな後遺症が残ることがわかってきました(56参照)。コロナが軽症であっても後遺症に苦しんでいる方もたくさんいるという実態も明らかになりつつあります。季節性インフルエンザで1年近く肺に障害が残った症例を私は見たことがありませんし、普通の風邪でこれだけ後遺症に苦しむこともありません。

 第三に、まだまだわからないことが多い怖さです。

 この1年半で新型コロナ感染症の治療法はかなり確立し、標準的治療が固まってきました。厚労省が新型コロナ感染症治療薬として順次承認してきたレムデシビル、デキサメタゾンなどの薬剤は、投与法や投与期間がある程度決まっています。さらに719日には、抗体カクテル療法が特例承認されました。これは軽症患者対象としては国内初の治療薬で、感染初期にウイルスの増殖を抑えてくれるものとして期待されています。

 このような治療法の進歩にともない、死亡率も下がってきてはいるのですが、一方で、治療薬が効かず亡くなる人が一定数います。あるいは、薬が効いてECMOを離脱できたのに再度悪化したり、合併症のために命を落としてしまう患者がいます。なぜ治療がうまくいかないのか――説明できない事態が今でも医療現場では日常的に発生しているのです。  どうでしょうか? やはり新型コロナ感染症にはかかりたくないと思いませんか。政府の失策への怒り、1年半以上強いられてきた我慢の限界、コロナ慣れなどがあるとは思いますが、患者の苦しみを見てきた者としてはとにかく、「コロナにかからないでほしい」。重症化する確率が低い若い人にとっても、後遺症まで考えれば、健康な人生を送る上でコロナ罹患はリスクが高すぎると私は考えます。引き続き感染リスクを減らすこと、機会が来たらワクチンを接種していただくことをお願いしたいと思います。
724日口述 構成・文/鍋田吉郎)

 

ここに記す内容は所属組織・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

 

連載第61回は8月4日掲載予定です。

鍋田吉郎(ライター・漫画原作者)

なべた・よしお。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

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写真/ 讃井將満、ブルーシーインターナショナル、ヒューモニー
レイアウト/本間デザイン事務所

スピーカー

讃井將満(さぬい・まさみつ)教授

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長

集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。